きっと無線で私たちの居場所を確認し合っていることでしょう。
しかしその辺は想定の範囲内。
「私は背後の警戒に専念していればいいのだ。」
そう確信しました。
戦友を信じよう。
しばらく行くと、アスファルトもはがれてしまっているようなノスタルジックな光景が広がってきました。
何でしょう、この感覚は。
まるで、戦後の昭和初期のような懐かしさを覚える光景です。
どちらかというと昭和の後半に生まれた私は、実際に見たこともない光景に、懐かしさと親近感を覚えたのです。
とても不思議です。
もしかしたら、デジャブというヤツかもしれません。
そんな不思議な感覚にちょっと気持ちよくなっていると、戦友がおもむろに踵を返しました。
そして、何の説明も、何の躊躇も迷いもなくさっききた道を引き返しました。
もしかしたら、民家の2階に隠れているスナイパーの気配を察したのかもしれません。
先ほどのデジャブは敵がつくった幻影で、そこに誘い込まれた瞬間にスナイパーの餌食になってしまうという罠だったのでしょう。
先頭を戦友に任せてよかった。
私は心底彼に感謝しました。危うく脳天を打たれて自分でも気づかないうちに敵の手に落ちてしまうところでした。
その後も、行ったり来たりを繰り返し、先頭の戦友は目視できないスナイパーからの攻撃をかわし続けました。傍目にはただの迷子のようでしたが、彼は無言でスナイパーと戦い続けていたのです。
私には分かります。
きっと、肉体的はもちろん、精神的にも疲労が溜まっていることでしょう。
そうこうしているうちに、急に目の前に焼き肉店が軒を連ねるエリアが私たちの前に広がりました。
ついに、目的地にたどり着いたのです。
敵との静かな戦いに打ち勝ったと実感した私は、戦友と喜びを分かち合おうと彼を見ました。
しかし彼は、相変わらずの無表情。
いや、もしかしたらこの顔が満面の笑顔なのかもしれません。
相変わらず、分かりにくいヤツです。
鶴橋の焼肉セットはとても美味しかったです。どこにでもありそうな焼肉チェーン店のそれとは2ランクくらい上です。
気に入った戦友は焼肉セットをお代わりしていました。
キムチもナムルも美味しいですね。ビールがグビグビいけてしまいます。
2軒目ではホルモンと豚足を注文しました。これもまた旨い。小綺麗な店内ではなく、昭和感漂う店内の雰囲気と肉を焼く七輪と煙が舞台装置となって旨さを引き立たせてくれます。
この辺りでビールはお互い8杯くらいはいったでしょうか?
もうお腹パンパンのチャプチャプだった私とは対称的に、まだまだいけそうな戦友。
細いわけではないが、太いわけでもない戦友の体質がうらやましかったです。
焼肉を二軒はしごした後、なぜか寿司屋に行きました。
なぜでしょう?
焼肉をあんなに食った後なのに、寿司が旨い。
いや、ネタの味はそんなにしませんでしたが、脂っこいものの後に寿司で締めくくるのも悪くはありませんでした。
ただ、願わくば2軒で終了しておきたかったです。明日からの食事制限が面倒です。
久しぶりに再会したわりにはあっさりと分かれた私たち。
まぁ、今生の別れではないということですね。
*あれから2ヶ月後に彼とまた呑みにいきました。次は滋賀県の史跡を巡りつつ、近江牛が食べたいという戦友のリクエスト。機会があればまた、ご報告させて頂きます。